まだお釈迦さまが生きておられた頃の話です。インドにあった、ある国の王様は、妻である、お妃様に尋ねました。
「あなたにとって、この世で最も愛しいものは何か」
王様は、自分の名を答えるのではないかと思っていたかもしれません。しかしお妃様は、静かに答えました。
「私にとって最も愛しいものは、私自身です」
お妃様もまた、王様に同じ問いを返しました。すると王様も、自分にとって最も愛しいものは、やはり自分自身であると気づきます。
二人はこのことをお釈迦さまに申し上げました。するとお釈迦さまは、「人はどこを探しても、自分より愛しいものを見つけることはできない。しかし、それは他の人にとっても同じである。だから、自分を愛する者は、他者を害してはならない」とお示しになりました。
自分を大切に思うことは、決して悪いことではありません。傷つきたくない、苦しみたくない、安心して生きたい。そう願う心は、誰の中にもあります。けれども、その思いが自分だけのものだと思った時、人は他者の痛みに鈍くなってしまいます。
8月は、戦争で亡くなられた多くの方々を思い、平和への祈りを新たにする月でもあります。戦争とは、自分たちの正しさや利益を守ろうとする中で、他者の命の尊さを見失ってしまう出来事でもあります。しかし、どのような時代・国にあっても、人はだれしもが自分の命を愛し、家族を思い、苦しみを避けたいと願っていたはずです。
自分が傷つきたくないように、相手も傷つきたくない。自分に大切な人がいるように、相手にも大切な人がいる。そのことに思いを馳せていくこと。それを思いやりというのではないでしょうか。
自らを愛する者は、他を害してはならない。
このお釈迦さまの教えを胸に、8月を過ごしたいと思います。

